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熊本地方裁判所八代支部 昭和43年(ワ)54号 判決

原告 田中キミヨ 外一名

被告 学校法人白百合学園

主文

被告が昭和四三年三月二九日付でなした原告両名に対する休職処分はいずれも無効であることを確認する。

被告は原告両名が被告学園(八代白百合学園)構内に立入り就労するのを妨害してはならない。

被告は原告両名に対し各金一三万三、一八二円を支払え。

原告両名の賃金に対するその余の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決の第三項は原告両名が各自金三万円の担保を供するときはそれぞれ仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は主文第一、二、五項同旨および「被告は原告両名に対し各金八、二〇二円および昭和四三年五月以降毎月末日限り一ケ月各金二万三、三〇〇円の割合による金員を支払え。」との判決並びに右賃金請求に対する仮執行の宣言を求め、その請求の原因並びに主張として、

「一、被告学校法人白百合学園(以下単に被告学園という)は、総本部をローマに、母院をフランスのシヤルトルに置く「シヤルトル聖パウロ修道女会」が日本において経営する学園で、被告学園八代白百合学園(以下単に八代学園という)は被告学園が経営する学園の一つで、その学園は八代学園の外東京、函館、盛岡、仙台、湘南、函嶺(箱根町)の六個所にあり、いずれも八代学園と姉妹学園の関係を有し、前記修道女会の修道女で各学園に奉職する教育職員、事務職員については相互に人事交流が行なわれている。

原告田中キミヨは昭和四二年四月一日八代学園に家庭科担当の教諭として採用され、賃金月額二万三、三〇〇円の支給を受け、原告松本和子は同日国語科担当の教諭として採用され、賃金二万三、三〇〇円の支給を受けてきたものである。

二、ところが八代学園は原告両名に対し昭和四三年三月二九日内容証明郵便をもつて「同年四月一日から学園の都合による休職とし休職期間は本俸の六〇パーセントを支給する。」旨通知し、原告らを休職にする(以下単に本件処分という)旨の意思表示をした。

三、しかしながら、本件処分は次の理由により無効である。

(一)  八代学園は昭和四三年二月二一日原告らに対し退職勧告したのに原告らがこれを拒否したので本件処分をしたものであるが八代学園教職員就業規則第一九条は、本人の意に反して休職を命じうる場合をそれぞれ一乃至三として規定しているが、本件処分の理由は右休職事由に該当しないので本件処分は無効である。

本件休職は学園の教職員にとつては不利益処分であり退職とも密接に関連するので前記就業規則第一九条が列挙する休職事由は限定列挙と解すべく、これが拡張適用は許されるべきでないにも拘らず八代学園は休職事由として生徒減による赤字経営ならびにクラス減少、教科時間減少、教職員の過員化を理由に偶々原告らが試験採用者であることを根拠に退職を要求したが、同人らの同意が得られない結果右退職を前提とする本件処分をした。しかし右は前記就業規則が定める休職事由のいずれにも該当しないので本件処分は右就業規則の適用解釈を誤つた無効のものといわねばならない。

(二)  仮にそうでないとしても本件処分は民法第九〇条により公序良俗違反であるから無効である。

原告らは教育能力の自主的向上を図り八代学園の沈滞した空気を打破して生徒に密着した教育を行い、併せて八代学園の現状についても批判是正を行うことを目的として原告らを含む新任教員を中心に新進気鋭の若手教員による教育研究会の結成を計画し昭和四二年一二月九日まず訴外村上麗明教諭がその結成を呼びかけ、訴外徳永洋子教諭および原告らが中心に同月一二日発起人会を開き他の教職員の参加を勧奨し、全員による強制加入を求めずあくまで教職員の任意加入による自主的組織を図り、更に同月一八日第一回の研究会打合せ会を開催し、会の名称、八代学園の教育方針、教職員の給与体系、日曜祭日の無手当出勤などにつき協議し、同月二三日開催の第二回集会においては会員職員の授業参観による研究授業を行う旨決議してそのスケジユールを決定し、昭和四三年一月二〇日の島村和子教諭担当の国語授業を初めとして同月三一日まで四回の授業参観を行うと共に職員会議(隔週一回)の開催されない月曜日の午後三時三〇分から研究討論会も行つて研究授業の反省、八代学園における教職員の労働条件などにつき討議したのに対し、当初教頭佐藤みさほ(以下単に教頭という)および校長武内マシ(以下単に校長という)も前記研究授業の参観をして担当教諭の労をねぎらつたほどであつた。

ところが八代学園は原告らの開催する研究会がその討議のテーマとして右学園における教職員の労働条件などを取上げていることを察知し、右研究会に対する当初の容認的態度を急変し弾圧の態度を示すに至り一月三一日衛藤教諭が研究授業の指導案を教務に提出しなかつたことを口実に同年二月三日校長は徳永洋子教諭に対し小グループによる研究会の中止および集会の禁止を命じた。

右研究会の責任者村上麗明はこれに不満を表明し、原告らも右研究会の熱心な会員であつたため八代学園は原告らを嫌悪し、同人らを右学園から排斥しようと考え同年二月二一日原告らおよび村上に対し退職を勧告したが原告らがこれを拒否したので口頭をもつて原告らを一年間休職処分に付し右期間満了と共に解雇する旨通告し、前記のとおり期間を明示しない本件処分の通告を内容証明郵便をもつてした。

以上のとおり本件処分は学園が原告らによる労働条件の討議を中心とする前記教育研究活動を嫌悪してなしたもので、それは日本国憲法によつて保障された学問研究の自由(憲法第二三条)および結社の自由(同法第二一条第一項)を侵害する効果をもつものであるから本件処分は民法第九〇条により公序良俗違反というべく無効である。

四、以上の次第で本件処分は無効であるが、八代学園は本件処分を理由に右処分後原告らの就労を拒否し、昭和四三年四月分給与諸手当の六〇パーセントを支給するとして金一万五、〇九八円を支払つたのみで残金八、二〇二円の賃金を支払わず、同年五月以降は毎月手取金一万三、一三二円を支給するのみである。よつて原告らは被告に対し本件処分は前記の理由により無効であることの確認および被告学園は原告らが構内に立入り就労するのを妨害してはならない旨の不作為義務並びに原告らに対し各自昭和四三年四月分の賃金控除残額八、二〇二円と同年五月以降毎月末日限り一ケ月の賃金各二万三、三〇〇円の支払を求めるため本訴に及ぶものである。

五、予備的抗弁に対する答弁

被告学園主張の予備的抗弁は否認する。

六、答弁六項の主張に対する反論

(一)、右(一)の事実中、八代学園中学校・高等学校の教育関係職員数を争い、その余の事実は認める。

(二)、(二)の事実中、昭和三八年度入学者の編成クラス数、昭和四三年度の入学者数および編成クラス数に対する八代学園の予想の事実を否認し、その余の事実を認める。

(三)、(三)の主張を争う。

被告学園は八代学園の生徒減が必然的にクラス減少を伴うとの大前提のもとに教科時間減少、教職員の過剰化という結論を直線的に導き出しているが、これは所謂すしずめ学級が学校経営の基本であるとの考え方に立脚している。

しかしすしずめ学級は教師の生徒に対する視察指導が行きわたらず教育の雰囲気からはみ出る生徒が多数発生し教育効果を弱めることは公知の事実であるので、営利を目的としない教育関係者は教育本来の使命から見て右学級を正常なクラス編成にすることを考慮すべきは当然で新入学生徒減少期こそその好期であつて、八代学園も新入学生徒を絞り教育水準を高めることに腐心していることは明らかであるが、自己の入試対策によつて自ら新入学生徒数を減少せしめながら生徒減を名目として教職員を整理するが如き行為は許されない。しかも八代学園におけるクラス人員は次の表のとおり中学、高等学校において不均衡がある。

一クラス当平均生徒数

年度 中学 高校

三五 四五 五四

三六 五一 五二

三七 四六 五三

年度 中学 高校

三八 四二 五〇

三九 五一 五一

四〇 四〇 五二

年度 中学 高校

四一 三五 五二

四二 二九 五二

四三 二二 五三

以上のとおり中学校においては昭和四〇年度以降一クラス四〇名から同四三年度には二二名と減少しているにも拘らずクラス数を減少させず高等学校においては一クラス平均人員を増加させてまでクラス減少を行つているのは全く不可解であつて、昭和四三年度高等学校新入生は二一七名であるからこれをせめて一クラス四三名平均の編成にすれば五クラス編成となりクラス数を減少させる必要はない。

また八代学園昭和四一年以降同四三年度までの収支決算についてみるに、総収入と総支出は全く一致しているが、毎年度剰余金がでて繰越されている事実は当然推察されるのにそれが現われていないのは寧ろ前記決算表が実態把握の資料としてはその機能を示していないことを証するだけであるから昭和四四年度の赤字予算も真実性を伴わない。

このように将来の不確定な時点における経営赤字を予想し早目に人員整理をすることによつて黒字を蓄積し将来に備えることは営利会社以上に経営至上主義的運営といわざるを得ない。

(四)、(四)の事実中、八代学園がその主張の理由により国語、理数、家庭の各教科につき教諭各一名の減員を決定し、試験採用期にある職員からこれを選考し、原告両名および村上麗明にその主張の条件で退職勧告し、原告両名がこれを承諾しなかつたので右両名に対し本件処分の辞令を交付し、原告らによる受領拒否により内容証明郵便により右辞令を郵送したことは認める。

八代学園は本件処分につき試験採用期間中のものを対象とすることが妥当と考えただけで、それを理由に本件処分をしたものではない旨主張するが、原告らに対する退職勧告においても原告らは右採用期間中であるから無条件に解職できるとの態度で臨み、また原告松本和子を本件処分の対象者と決定するにつき勤務評定をしたというが、右評定書は本件処分による紛争発生後に作成された疑いがある。

(五)、(五)の主張は争う。

よつて被告学園の主張は失当である。」

と述べ、

被告訴訟代理人は「原告両名の請求のうち、休職処分無効確認を求める部分はこれを却下する。その余の請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告両名の負担とする。」との判決を求め、答弁並びに主張として、

「一、本案前の抗弁

本件処分は答弁第六項で述べるとおり八代学園の生徒減少に伴い原告らに振当てるべき授業時間数の不足が生じたので原告らの労務提供に対し使用者が企業又は事業体の業務遂行上被傭者の労務提供に対しその労働を適切に配置し、組織化し、使用する雇傭契約上の包括的権利を有する労働力の処分に関する指示権を行使し所謂レイアウト自宅待機を命じたに外ならず、公務員の地位処遇につき規定された休職処分とは法的性質を異にしそれ自体独立した法律効果を発生せしめるものでもなく、又学園就業規則に定められた休職にも該当しない。

本来処分の無効確認の訴訟物は法律効果を発生せしめる行為又はその法律効果自体であることを必要とするものであるから原告らの本件処分の無効確認請求はその点において理由がなく、訴の利益を欠くので却下されるべきである。

二、請求原因第一、二項の事実は認める。

三、第三項の主張は争う。

(一)、もつとも第三項(一)の事実中、八代学園が原告ら主張の理由をもつて原告らに退職を勧告したが、原告らがこれを拒否したので口頭をもつて一年間の休職後自発的退職を内容とする提案をなし、本件処分の通告をなしたこと、右休職事由が就業規則第一九条に規定する休職事由に該当しないことは認めるが、その余は否認する。

一般に休職は継続的契約である労働契約において相当の理由ある場合直ちに雇傭契約を終了せしめることなくそれを存続しつつ労務の提供を受けない状態を保持することであるといわれ休職事由は原則的には就業規則に明示されるが、労働組織化の合目的的裁量権は原則として使用者にあるので被傭者に労働条件上特段の不利益を蒙らしめない限りこれを行使して休職処分をなしうるので就業規則に休職事由が列挙がなされているのを捉えこれを制限列挙と解するのは相当でなく、寧ろ就業規則の休職事由は例示列挙と解すべく、右休職事由以外にも一般的企業経営体上、休職概念に含まれるものも存在する。

本件処分はまさにそれであつて、しかも原告両名には後記主張のとおり就業規則第二二条による即時解雇の事由が存するところ恩恵的に円満退職のための熟慮と再就職の準備期間を与えるため本件処分にしたのであるから本件処分は原告らに何の不利益を与えるどころか却つて利益をもたらし、これは従来の雇傭契約を尊重した八代学園の善意に基づく措置であつて適法且つ有効である。

(二)、第三項(二)の事実は否認する。

八代学園においては昭和四〇年度生徒の急増時に際し新しい教育にとりくむ必要上、校長は各教科に関する研究会開催を発案したので各教科毎の分科会が連絡会を兼ねて発足し、昭和四一年には更にこれを推進するため職員会を隔週として一週間おき月曜日教科研究会を持つこととした。

昭和四二年一二月八日頃社会科教諭徳永洋子から若い先生方が授業につき不安を抱いているので研究授業等行つて研究会を持ちたい旨相談があつたので校長は賛成し全職員による発足を指示すると共に希望者の名簿、計画プランの提出を求めたが、職員会議又は職員全員の席上これがはかられることもなく、昭和四三年二月二日教頭より特定の教諭、特定のクラスで授業参観が行われ職員間では特定の教諭のみでかかる行事のなされていることに不満がある旨伝えられたので校長は驚愕し、その実情を危惧し同月三日徳永教諭にその事実を指摘し、弊害の生じていることを説明し、前記研究会は当初校長が予想したものと異なるので今後研究授業を行う際は全職員に呼びかけ、教案を教務に提出するよう指示した。その後二月七日以降順次研究会は教員全員への呼びかけをして逐次今日まで継続されているが、二月一九日の職員会議においては村上教諭が研究会に関する報告をなし、教頭も研究会は生徒の正規の授業であるので生徒に与える心理的影響も十分配慮の上正規に教務と連絡の上実施し右研究会を継続発展させるよう要請したので全職員の討議により今後は全職員でこれを行うべく決定したほどであるから八代学園としても研究会の発展を希望し、且つ奨励していたのが事実であつて、原告らの主張は全くいいがかりにすぎない。

四、第四項の事実中、八代学園が原告らの就労を拒否していること、右学園が昭和四三年四月分給与諸手当の六〇パーセントとして金一万五、〇九八円を支給し、同年五月以降原告ら主張のとおり給与の六〇パーセントを支給し、原告らが右金員を受領していることは認めるが、右学園は原告らの就労を妨害しているものではない。八代学園は原告らの労務提供に対しその組織化および使用を拒否しているのであつて、被傭者の労働力使用は使用者の事業体の実態に即して決定しうるところであるから右拒否は所謂就労妨害とは性質を異にするものである。

しかも原告らは昭和四三年五月以降各自給与額金二万三、三〇〇円の支払を求めるが、八代学園は同年四月以降原告両名に対し一年間従前給与の六〇パーセントを支給することを明示し、且つ支払つたのであるから原告らが各自控除額四〇パーセントの金八、二〇二円の支払を求めるのであれば格別全額金二万三、三〇〇円の支払を求めるのはその六〇パーセントについては二重の支払を求めることになるので失当である。

五、予備的抗弁

八代学園は就業規則第二二条第七号「学校経営上やむを得ない事由が生じた場合」の規定に基づき学園が本件処分の理由とした事実を理由に昭和四四年一月二五日の本件口頭弁論期日において、原告らに対し解雇を予告したので、右予告に基づき原告らと八代学園の雇傭契約は同年二月二五日をもつて終了したのであるから少なくとも同年三月一日以降八代学園は原告らに対し給与支払義務はなく、原告らは右学園内に立入る権利も有しないのであるからその点に関する原告らの主張は失当である。

六、本件処分に至つた経緯

(一)、八代学園の発祥は古く、明治三三年八代に修道女会日本管区八代支部が開設せられ、博愛医院、ナザレ園等による社会事業が行われ、これが発展して明治四二年私立八代技芸学校が設立された時に遡る。同校は大正二年私立八代技芸女学校と改称せられ、更に八代実業高等女学校、八代成美高等女学校と名称を変更し、昭和二二年学制改革によつて現在名称を称するにいたり、創立以来六〇年の歴史を有し、その間に八、一九五名の卒業生を社会に送つている。

八代学園は、幼稚園二、中学校一、高等学校一を併設し、昭和四三年五月一日現在中学校、高等学校の生徒数七五五名、クラス数一六で、中学校は六七名三クラス、高等学校は六八八名一三クラスで、中学校、高等学校の教育関係職員は校長一名教諭二五名(休職中のものを含む)、助教諭六名、講師五名、司書一名、養護教諭一名、合計三八名でこのうち修道女は四名である。

(二)、八代学園は昭和三二年度まで高等学校入試選考を公立高校入試日前に実施していたが、昭和三三年度より生徒の質を改善し、入学希望者をより明確にする趣旨で、学園、職員、同窓会の総意により入試を公立学校入試日と同日に実施することにして昭和三六年度を除き昭和三七年度まで各年度入学者は四クラス編成をとつてきた。もつとも昭和三六年度は入試合格者の激減のため第二次募集を行つたが、第一次選考の水準維持を確保したため三名を受け入れるに止まり、同年度は二クラス編成となつた。

昭和三八年度は公立高校と同日入試を行い二九八名の選考を終えたが、同年度生徒数の絶対数の増加に伴い熊本県内、八代市内各中学校長、中学校PTA代表等からの入学者増員の要請を受け、国および近傍地域社会の要請にこたえるべく例外的に第二次募集を行い同年度は六クラス編成となり、昭和三九年度および同四〇年度は前記同様生徒数の急増に対処し近傍地域社会の要請にも応ずる態勢をとり施設の強化を図るため入学生徒を増員するが昭和三八年度の事跡を検討した結果第二次募集はなすべきでないとの結論に達し、八代学園の入試を公立学校入試前に実施していずれも入学者を七クラス編成とした。しかし昭和四一年度は生徒数の増加は継続していたが、数年後における生徒数の減少が予想され、その時期における私立学校経営の危機に対処すべく職員の総意により入学者を漸減せしめ、学園内部の充実、質の向上をはかるべく同年度は五クラス編成、昭和四二年度は四クラス編成となつた。

ところが昭和四三年度は、八代学園において意外に早く生徒数の急減に直面し、同年二月一〇日の入学願書締切日における入学志願者数から考えて同年度の入学者は一八〇名三クラス編成になることを覚悟しなければならない事態となつたので、八代学園は同年二月一六日生徒募集対策委員会において委員の職員等と協議したが、入学者減により高等学校のクラスは最少三クラスの減少は避けられないこととなり、それは必然的に各教科総時間の減少をもたらし、昭和四三年度における各教科時間の減少度は次のとおり予想された。

教科 四二年度時間数 四三年度時間数 減少時間

国語   一〇六      八八    一八

社会    九七      八一    一六

理数   一三三     一一九    一四

英語   一一二      九七    一五

保体    五二      四二    一〇

家庭    八〇      五七    二三

芸術    三五      三四     一

商業    二二      二〇     二

宗教    二一      一八     三

(三)、元来学校法人は学校管理と財政につき義務と責任を有するものであるから学校経営のための基本財産を保有すると共に施設等の運用財産を保有確保することが義務づけられているが、私立学校の目的並びに八代学園はカトリツク教育活動を唯一の目的とするので営利的収益活動を営むことができず八代学園の収入は生徒納付金に依存しなければならない実情にある。私立学校法人の昭和四一年度全国平均によれば、学校の生徒納付金額(授業料、校費、入学金および受験料等生徒および受験者が学校に納付する年間合計額)が年間総収入額に占める割合は六四・五パーセント、年間総支出額の主たる部分に当る人件費が年間総収入額に占める割合は三〇・九パーセント、右人件費が年間総支出額に占める割合は三〇・九パーセントであり、他方公立高校の昭和四〇年度予算実施に基づく年間人件費が公費負担による総収入額に占める割合は五一・一パーセントである。

それに反し八代学園においては生徒納付金が収入の大部分を占め、且つ人件費が経営的支出および消耗的支出の大部分を占めておる。

即ち、昭和四一年度の総収入は四、八〇〇万円弱、生徒納付金は四、五〇〇万円強で総収入額の九五パーセントを占め、人件費は一、九八八万円強で総収入に対する比率は四〇・六パーセント、一般収入に対する比率は四一・五パーセント、生徒納付金に対する比率は四三・八パーセント、授業料に対する比率は六九・五パーセントであり、昭和四二年度の総収入は四、三〇〇万円強、生徒納付金は四、一二一万円強で総収入額の九六パーセントを占め、人件費は二、〇五二万円で総収入に対する比率は四七・四パーセント、一般収入に対する比率は四九・七パーセント、生徒納付金に対する比率は四九・七パーセント、授業料に対する比率は八七・五パーセントである。

以上のとおり八代学園の収入はその九五パーセント以上を生徒納付金に依存し、生徒減員は直ちに総収入の減少をもたらし、それは必然的に人件費を含めた総支出の縮小化を要請するので昭和四三年度は入学者に対し特に授業料七〇〇円増額を決定したが、入学者は一八〇名と予想され、右一八〇名乃至二〇〇名につき七〇〇円の授業料増額によつて増加する収入は精々一五〇万円乃至一七〇万円であるのに対し、生徒減の結果減少する授業料収入は五〇〇万円を超えることが推定され、これは八代学園の財政上の重大な危機であるからこれに対処すべく在校生についても授業料月額五〇〇円の増額決定をなし父兄の諒解を得たが八代学園の財政的悪化に対する措置として授業料増額を要請するとしても学園内における一切の不必要費の支出は防止すべきであり、公費による予算支給を支出源とする公立学校においても法令による基準を超えて過員となつた教職員についてすら減員するのであるから生徒減、クラス減による財政規模に応ずる縮小措置としては過員の教職員の減員措置をとらざるを得なくなつた。

(四)、八代学園は以上の状況の推移に対し、同学園の将来に続く経営、運営上の要請と職員の教科担当時間数の減少、不均衡等を考慮し、時間数の減少する国語、社会、英語、家庭、理数、保健体育各科につき過員となる職員の減員を検討し、特殊事情のある各教科を除き余剰を生じた国語、理数、家庭の各教科につき各一名の減員を決定した。

そこで右三教科につき在職年限の短く且つ若年で生活上の負担の少ないなど退職上の影響の薄い職員に協力を求めるべく試験採用期(採用後一年間)にある職員の中からこれを選考し(右選考は試験採用期間中であることを理由としたものではなく、退職上の影響を受けることの少ない教職員を選考した結果が偶々試験採用期間中の者であつたにすぎない)、理数科の訴外村上麗明、家庭科の原告田中キミヨと定め、国語科においては同時採用した職員は原告松本和子と訴外松本弘子がいたのでその両者を職務状況、特性、能力、勤務状況、適性、性格の各点から評定し原告松本和子と定め、八代学園は昭和四三年二月二〇日原告田中キミヨに、翌二一日原告松本和子および訴外村上麗明にそれぞれ前記事情を理由に口頭にて退職を勧告したが、同月二七日原告らはその取消を求め村上麗明は即時退職は再就職上支障があると申入れたので八代学園もこれを考慮し同年三月一四日一年の休職期間を設けその間八代学園教育職員としての地位を保有せしめ、従前の本俸の六〇パーセントを支給することを条件に同月末日をもつて円満退職を内容とする提案をなしたところ、村上は即時これを承諾したが、原告ら二名はこれを承諾しなかつた。

そこで八代学園は、同月二九日原告ら二名に対し前記休職辞令を交付したが受領を拒絶されたので同日両名に対し内容証明郵便をもつて郵送し、おそくとも同月三〇日原告らに到達した。(もつとも原告松本和子はこれを返送した。)

(五)、以上の理由により、生徒減に伴う八代学園財政規模の縮小要請、財政均衡による学園運営の維持、危機に瀕した財政回復のためには過員の教職員を減員することは就業規則第二二条が規定する「学校経営上止むを得ない事由が生じた場合」に該当するので「校長は三〇日前に予告して解職するか又は三〇日分の予告手当を支給して即時解雇することができる。」ところ原告らの利益のため直ちに解雇手続をとらず同人らに退職勧告をなし、任意退職の再考期間並びに再就職の機会を与えるため本件処分をなしたものであるから右処分は適法且つ有効である。」

と述べた。(証拠省略)

理由

一、本案前の抗弁について

被告学園は、本件処分は使用者の被傭者に対する労働組織化、労働力処分に関する一指示にすぎずそれ自体独立した法律効果を発生せしめるものではないので確認の利益がない旨主張するが、被告学園の主張自体からも明らかなように原告両名は本件処分により就労を拒否され賃金も減額されているので右処分は原告両名の意に反したものというべく、且つ直接に被傭者としての具体的な権利乃至利益が侵害されているのであるからその救済を求めるべく右処分の無効確認を求めることは相当であつて、被告学園の主張は理由がない。

二、本案について

(一)  被告学園は、総本部をローマに、母院をフランスのシヤルトルに置く「シヤルトル聖ポウロ修道女会」が日本において経営する学園で、右学園は日本において六個所に姉妹校を有し、八代学園はその一つであつてそれら学園間においては教職員として奉職する前記修道女会の修道女の相互人事交流がなされていること、八代学園は最初明治三三年に開設され、被告学園主張の経過により現在に至り、昭和二二年学制改革により現在の名称を有するに至り、その間八、一九五名の卒業生を送つた歴史の古い学園て、現在幼稚園二、中学校、高等学校各一を併設し、昭和四三年五月一日現在中学、高等学校の生徒数七五五名、クラス数一六(中学校六七名三クラス、高等学校六八八名一三クラス)、教育関係職員は校長、教諭、助教諭、講師、司書、養護教諭をもつて構成されていること(但し員数については当事者間に争いがあるが、証人佐藤みさほの証言によれば、被告学園主張の総人員三八名は校長を含まない数字であること、校長は管理職であるため教育職員数から除外したことが認められるので、被告学園の主張を右趣旨に解すれば、その主張のとおりであることが認められる。)、原告両名は昭和四二年四月一日八代学園の教諭として採用され、原告田中キミヨは家庭科を、原告松本和子は国語科を各担当していること、八代学園は昭和四三年二月二〇日、同月二一日原告らに対し退職勧告し、同年三月一四日原告両名および村上麗明に対し生徒減によるクラス減少、各教科時間減少、教職員の過員化を理由に一年間の休職期間を定め、右期間満了後退職することを勧告し、右村上はこれを承諾したが、原告両名は拒否したので同月二九日原告両名に休職辞令をなし受領されなかつたので同月三〇日右両名に右辞令を郵送したことは当事者間に争いがない。

(二)  原告両名は本件処分が就業規則第一九条に列挙された休職事由に基づかないものであるから無効であると主張するのに対し、被告学園は原告両名にはもともと右規則第二二条の「学校経営上やむを得ない事由が生じた場合」の即時解職の事由が存在するところを恩恵的に円満退職のための熟慮と退職後再就職の準備期間を与えるため本件処分をしたのであるから右処分が休職事由に該当しなくても有効であると争うので判断するに、八代学園が本件処分の理由とする生徒減による教職員の過員化並びに経営困難が前記就業規則規定の休職事由に該当しないことは当事者間に争いがない。

もともと休職処分は、従業員を職務に従事させることが不能であるか若しくは適当でないなどの事由が生じた場合、その障害の継続する期間その従業員の地位を維持させながら職務従事を禁止し、その障害事由が消滅した場合は右従業員を復職させることができる処分であつて、休職事由の消滅は従業員の職場復帰を意味し、休職期間が満了してもそれを自動的な雇傭契約終了の事由とする別段の定めのない限り労働契約は当然に終了しないものであつて、弁論の全趣旨によれば本件処分は以上の性格と異なり、原告両名には就業規則規定の即時解職の事由が存在するところ恩恵的配慮からなされたもので原告両名の職場復帰を前提とするものではなく、右期間内に任意退職しない限り期間満了により原告両名を退職せしめる意思表示と解するのが相当である。

成立に争いのない乙第二号証(就業規則)によれば、第一九条が休職事由を列挙し、第二一条第二号は休職期間を越え復職が承認されない時は教職員は終任すると定めているので、右第一九条の規定自体は原則として前記の職場復帰を前提とするものと解すべく、本件処分は本来の休職と異なり退職の予告通知としての性格を持つので右第一九条の休職処分規定のみを根拠に有効か否かを判断するのは相当でなく、前記就業規則規定の即時退職事由の存否とも対比して判断すべく被告学園主張のとおり原告両名に右即時退職事由が存在するとすれば、直ちに退職手続をとらず或る期間八代学園の従業員としての地位を維持せしめ、その間に任意退職を求め、期間満了と共に原告両名を解職せしめるための便宜的方策として本件処分がなされたのであればそれは原告らにとつては何ら不利益はないので許容されるものというべきである。

(三)  そこで原告両名に被告学園主張のとおり就業規則第二二条第七号規定の「学校経営上やむを得ない事由が生じた場合」の解職事由が存在するかどうかについて判断する。

八代学園は昭和三二年度まで高等学校入試選考を公立高校入試前に実施したが、昭和三三年度より昭和三八年度まで入学希望者の意思を明確にし教育効果を向上させるため公立学校入試日と同日にこれを実施し、昭和三九年度から入学希望者の増加に伴い再び公立高校入試前に実施したこと、新入学生のクラス数は昭和三七年度まで四クラス(但し昭和三六年度は二クラス)、昭和三八年度六クラス、昭和三九年、同四〇年度各七クラス、昭和四一年度五クラス、昭和四二年度四クラス編成であつたこと、ところが昭和四三年度は同年二月一〇日の入学願書締切日における入学希望者数から判断し予想外の生徒減の事態に直面したので八代学園は同月一六日生徒募集対策委員会において委員の職員と協議した結果高等学校の新入生は約一八〇名三クラス編成に減少することは避けられないとの結論に達し、それが必然的に各教科総時間の減少、教職員の過員化を導き、経営の赤字化を招来するのでその危機を避けるため国語、理数、家庭の各科から教諭各一名の減員を決定し、退職上最も影響の薄い試験採用期間中の職員からこれを選考し、理数科の訴外村上麗明、家庭科の原告田中キミヨ、国語科の原告松本和子と決定し、同人らに対し前記のとおり退職を勧告したが原告両名が承諾しなかつたので結局本件処分にしたことは当事者間に争いがなく、証人佐藤みさほの証言により真正に成立したと認められる乙第四乃至第六号証および右証言によれば次の事実が認められる。

八代学園の昭和三五年度以降の教育職員、生徒数およびクラス数は別紙第一表、学級編成の実態は別紙第二表のとおりである。終戦後は一般的傾向として私立学校中学校の入学希望者が多かつたが、次第に義務教育の設備完備、教育内容の充実が図られた結果私立学校希望者は漸減し、八代学園においても昭和三五年度以降中学、高校新入生は次第に減少し昭和三六年度は高校の新入生が極端に減少したこと、ところが昭和三八年度から生徒数は漸次増加の傾向となり、昭和三九年、同四〇年度は一般に中学卒業者の絶対数増加に伴い急激に生徒数およびクラス数も増加したこと、昭和四一年度も未だ新入生増加の傾向にあつたが、数年後には中学卒業者の絶対数激減により高校希望者も急減することが予想されたが、一時期における生徒数の急減は学園経営面および教育効果からも好ましくないのでかかる事態を避け相当期間内で生徒数を漸減せしめて生徒の質と教育内容の充実を図ることが得策と考え、同年度および昭和四二年度は八代学園独自の見解から多数の入学希望者がいたが新入生を厳選して漸減させたこと、ところが昭和四三年度は前記争いのない事実のとおり同年二月一〇日の入学願書締切日の入学志願者は総数四七二名で、八代学園の入試は公立高校入試前に施行するため合格者中から公立高校へ入学する者もあり、実際に八代学園へ入学する者は過去の実績からその約四〇パーセントにすぎないことが推察されるので種々検討した結果同年度の新入生は約一八〇名前後となり三クラス編成で生徒数が急減し、必然的に各教科時間の減少が予想されたのでこの局面に対処するため教頭らは前記生徒募集対策委員会(もつともこれが教職員を代表する機関であることを認めうる証拠はない)と協議の上数名の教諭に退職を勧告することもやむを得ないと判断したこと、しかしながら同年度の新入生は二一六名四クラス編成となり、前記予想を上回つたとはいえ入学志願者数の約四七パーセント弱にすぎず八代学園の総生徒数は別紙第一、第二表のとおり昭和四二年度より相当減少し、且つ八代学園中学校の生徒総数は極めて少数である上今後は中学卒業者の一般的減少が継続するため八代学園高校入学志願者数も減少を免れず将来総生徒数減少の傾向にあることは十分予想されることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

しかし被告学園は昭和四一年度以降生徒漸減の対策を講じ昭和四三年度は急激な新入生減に直面したといいながら前記認定のとおり同年度の新入生は入学志願者数の半数にも充たなかつたことは合格者中に公立高校入学者が存在する事実を考慮しても入学志願者数に比して著しく少なく、勿論高等学校教育において徒らに新入生を増加させて生徒の質を低下させることが望ましい現象でないことは証人佐藤みさほの供述するとおりであるが、新入生の極端な増員を行わない限りそれが直ちに生徒の質の低下をもたらすとも考えられず、仮にその事実があるとしても一部にすぎず、それは入学後の教育方法により質の向上が期待できるところであるから真に生徒減による経営上の支障が懸念されるならば昭和四三年度および将来の入試方法を再検討すれば新入生の増員をはかることも不可能ではなく、生徒減による経営危機も或る程度防止改善しうるものと推察される。

被告学園主張の各教科時間の減少も生徒減が発生する限り当然と考えられるが、別紙第二表にあるとおり従来のクラス生徒数は高等学校教育上望ましい姿ともいえず、今日の学校教育状況からも学級のつめこみ教育の改善が強く要請されていることは公知の事実で学級の生徒数を減じ理想的な姿でクラス編成を図れば各教科の時間減を或る程度防止しうると共に教育効果も期待されるところで、八代学園中学校はクラス生徒数二〇名乃至四〇名で編成されていることと対比してもその実現は必ずしも困難とはいえず、昭和三六年度において高等学校新入生が二クラス編成に減少した際、クラス減、各教科時間減が伴うにも拘らずその時期には特に教諭の減員が検討された事跡もなく、前記乙第五、第六号証および証人佐藤みさほの証言によれば昭和四三年度における教科時間は昭和四二年度におけるそれより相当時間減少していることが窺われるが、昭和四三年度職員別教科時間数表(乙第六号証)には各教諭の時間数小計の記載はあるが担当学年クラスの明示がないため、それのみで直ちに右証言の趣旨を措信できず八代学園は昭和四一年度以降早晩到来する急激な生徒減を予想して新入生数を抑制したことは前叙説示のとおりであるから当然その頃から教職員の過員も十分に予想されながら昭和四二年度は退職教諭一名にすぎなかつたのにも拘らず原告両名および村上麗明を含む六名を新規採用したが翌昭和四三年度には直ちに生徒減、各教科時間の減少予想のもとに教諭の減員を決定し、試験採用期間中の原告両名および村上をわずか一年で整理の対象としたが通常経営合理化のため人員整理を行う場合にとられる希望退職者を募るなどの措置を講ずることもなく前記処置をとつたことは前記事情から判断すれば合理的理由を欠くところであり、証人佐藤みさほの証言により真正に成立したと認められる乙第九号証の一、二および右証言によれば、国語科の教諭一名を対象に決定した際、右科には試験採用期間中の教諭原告松本和子と訴外松本弘子の両名がいてそのいずれかを決定しなければならなかつたので八代学園は両名の評定を行つてその優劣を決すべく評定表を利用してこれを行い原告松本和子を選定したことが認められるが、右評定表によつても原告松本和子が適格性において右松本弘子に劣ると必ずしも断定できないこと、後記認定のとおり八代学園の経営は生徒の納付金に大きく依存していることは明らかであるが、入試方法、経営上の対策などにつき特に検討改善した上経営上の困難が実現したというのであればやむを得ないとしても単なる生徒減による予測から直ちに本件処分の挙に出たことはいずれにしても早計といわざるを得ず、後記のとおり昭和四三年度は授業料値上げによるとはいえ、生徒減に拘らず前年度に比して納付金の増加、総収入の増加がもたらされていることがこれを裏付けるものである。

(四)  成立に争いのない乙第二四号証の一乃至五、第二五号証、第二六号証の一、二、被告学園代表者武内マシの本人尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第二一乃至第二三号証および右本人尋問の結果によれば、八代学園の収入は殆んど生徒納付金(授業料、入学金、考査料)に依存し、それは総収入の九五パーセントを超え、一般公立高校に対比するとその割合が極めて大きいこと、例えば昭和四一年度を例にとれば公立高校の割合は六四・五パーセントであるのに対し、八代学園は九五パーセント、そこで八代学園の経営はその納付金の如何により影響を受けること、しかも右学園の純経費に対する人件費の占める割合はこれも全国高校に対比して相当高く六〇パーセントを超え、その比率は人件費の高騰に伴い年々増加の傾向にある上、昭和四三年度新入生は前記のとおり二一六名で総人数は相当減少し中学卒業者の一般的減少傾向とも関聯し生徒納付金に依存している八代学園の将来の見通しは暗く経営上の困難に遭遇することは容易に想像されるところである。

しかしながら被告学園代表者武内マシは、前記尋問の結果において生徒納付金に対する人件費の割合は六〇パーセント以下であれば一般的に学校経営は健全であると供述しているのでこれを検討するに、乙第二二号証によれば昭和四一年度を例にとれば、その割合は寧ろ八代学園の方が公立高校より低いことが認められ、昭和四三年度においても五六パーセントで前記趣旨から判断すれば健全経営の範疇に属する上、前記乙第二二号、第二三号証および前記武内マシの代表者本人尋問の結果によれば昭和四三年度は新入生金七〇〇円、在校生金五〇〇円の授業料値上げによつて総収入は前年度より増加し、純経費に対する人件費の比率も低下し、後記当事者間に争いのない事実のとおり原告両名の八代学園から支給される給料額からみてもその年間金額は右学園の総支出のわずかな割合を占めるにすぎないことが認められ、又右乙第二二号証によれば昭和四四年度生徒納付金に対する人件費の割合は七一・九パーセントと著しく増加しているが、その基礎となつた同年度の収支決算はあくまで見積予算書によつて計上された一つの予想にすぎないことが明らかであるからそれをもつて直ちに八代学園の経営困難が実現したものということができない。

しかも前記武内マシの代表者本人尋問の結果によれば、八代学園が真に経営上の危機に瀕した場合被告学園乃至前記修道女会に現状を訴え援助を要請する計画のあることが窺われるが未だかかる処置のとられた形跡はなく、前記争いのない事実のとおり被告学園は世界的規模のもとに経営され日本においても姉妹校を経営し八代学園はその一つでそれぞれ独立採算制度をとるが、相互に連係し歴史的伝統を維持する学園で通常の私立学校とその事情を異にし相互に協力すれば経営上の危機も或る程度回避しうるのではないかと推察される。

(五)  以上のとおり八代学園の経営に対する将来の見通しは必ずしも安泰とはいえず寧ろ相当の困難に直面することが予想されるのでそのための経営合理化対策が強く要請されることは容易に肯認される。しかしながら前記認定の如く、その危機回避の対策を種々講じその改善に努力すれば八代学園の合理的運営は必ずしも実現されなくもないと推察されると共に本件処分の原因となつた右学園の経営困難はその処分時においてはあくまで予測であつて未だ現実に発生したものでもない(弁論終結時においてもその実現を肯認しうる証拠はない)ので前記の事情をもつてしても本件処分の理由が就業規則規定の学校経営上真にやむを得ない事由に該当すると判断するに足る合理的理由を見出しえない。

そうであれば本件処分は休職とはいえ通常の休職と異り、前記認定のとおり当然退職を前提として即時解職に準じうるものでその解職事由の存在を要するところ右事由を肯認することができないので結局本件処分は以上の理由からも無効たるを免れない。

しかも八代学園は本件処分を理由に原告両名の就労を拒否したこと、そのため同人らの就労が不能になつたことは当事者間に争いがなく(もつとも被告学園は原告らの就労を拒否しても妨害した事実はない旨主張するが、右拒否が原告らの就労を不能ならしめたものと判断されるし、右事実は原告両名の本人尋問の結果により認められる。)弁論の全趣旨によれば、八代学園が将来この就労拒否を継続することは容易に認められるところであつて、本件処分が前記のとおり無効である以上八代学園は本件処分の期間経過後においてもその就労を拒否することは許されない。

しかも原告両名は本件処分当時一ケ月各金二万三、三〇〇円の賃金支給を受け、昭和四三年四月分として諸手当を含む賃金の六〇パーセントとして金一万五、〇九八円の支給を受けたことは当事者間に争いがなく、同年五月分以降原告両名は各自毎月金一万三、一三二円の支給を受けた旨主張し、被告学園は右主張を明らかに争わないので、弁論の全趣旨により原告らの右主張は当事者間に争いがないものと判断する。

そこで被告学園は原告両名に対し原告ら主張のとおり、昭和四三年四月分として給与額金二万三、三〇〇円のうち、差額各金八、二〇二円と同年五月分以降前記金二万三、三〇〇円から金一万三、一三二円を控除した差額金一万〇、一六八円を支給すべき義務を有し、原告両名の右賃金請求は弁論の全趣旨によれば本件処分の無効を前提に右期間内におけるもので右期間が一ケ年であることは前記のとおりであるから、結局被告学園は原告両名に対し、昭和四三年四月一日から昭和四四年二月末日までの各差額金合計金一〇万九、八八二円と同年三月分金二万三、三〇〇円の合計金一三万三、一八二円を支払うべき義務がある。

(被告学園は昭和四四年一月二五日の口頭弁論期日において、前記就業規則第二二条第七号「学校経営上やむを得ない事由が生じた場合」を理由に原告両名に解雇予告をしたので、同人らとの雇傭契約は同年二月二五日をもつて終了したから被告学園は同年三月分以降の賃金支払義務はない旨主張し、前記解雇予告をしたことは当裁判所に明らかで、その効力は別として、以上から判断すれば、被告学園は原告両名の賃金につき、同月分以降全額支払う意思がないことは明白であるから同月分の賃金は原告ら主張のとおり各金二万三、三〇〇円の請求を認容することができる。)

よつて原告両名の本訴請求のうち、本件処分の無効確認および原告両名の就労妨害禁止を求める部分は、原告らその余の主張について判断するまでもなく正当であり、賃金請求は前記認定の限度において正当と認め、その余を棄却し訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平岡三春 松尾俊一 中根与志博)

(別表省略)

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